インタビュー/【三上真司氏スペシャルインタビュー!】三上真司氏が目指した”純粋なサバイバルホラー”とは【2014年10月23日発売号】
「制限の中でいかに選択の幅を持たせるか それがサバイバルホラーの“自由度”です」
『サイコブレイク』の発売日を間近に控えた10月某日、本作のディレクターを務めた
すべてがゼロからのスタート 初めてづくしの『サイコブレイク』
──ついに発売日を迎えました。三上さんが久しぶりにディレクターを務められた作品となるだけでなく、Tango Gameworksにとっては初めての開発作品となりますね。
三上 『サイコブレイク』は、僕にとって初めてづくしの作品です。Tangoという会社を2010年に設立したときは10数名しかスタッフがいませんでしたが、それが『サイコブレイク』という大規模な作品を生み出せるまでに成長しました。本作で使用したゲームエンジンの“id Tech 5”も、今回初めて触れたのですが、すでに存在するエンジンでゲームを作るという体験すら初めてだったので、すべていちからのスタートでした。新世代機も含めたマルチプラットフォームで、さらに欧米言語に加えて中国語や韓国語といった複数の言語に対応させるということも初めて。僕自身は年を食っていますが(笑)、成人もしていないような若い会社にも関わらずここまでのゲームを作れたのは、スタッフのおかげだと感謝しています。
──確かに、設立してからわずか4年でこの規模のゲームを完成させたのはすごいことです。三上さん自身はTangoを作ったときに、いまの状況を想定されていましたか?
三上 最初から想定していましたね。じつは、Tangoを設立したときに、道はふたつあったんです。一方は、中規模の作品を足掛かりとして作りながら土台を固めて、つぎのステップに進むチャンスを待つ道。もう一方は、ワールドワイドを狙う作品に最初からチャレンジする道。我々は、後者を選びました。予想通り、困難な道となりましたが、スタッフが努力を重ねて全力で完成させてくれました。
── 海外の資本で国内の開発スタジオが、ここまでの規模のゲームを作るというのは、前例がないですよね。
三上 ここまでがっぷりと組んだゲームはないでしょうね。ベセスダ(・ソフトワークス)と組めたのは、ラッキーでした。これほど開発側の意見を尊重してくれる会社は、ほかになかったと思います。
──それだけに、失敗できないというプレッシャーがあったのでは?
三上 うーん。僕個人というよりは、若いスタッフが心配していたかもしれません。外資系っぽく、ちょっとしたミスで、ある日突然解雇されるんじゃないか? と思っていたスタッフが多かったみたいで(苦笑)。もちろん、そのようなことはないのですが。
──本作のように長い開発期間が必要なゲームでは、なかなかゴールは見えませんからね。
三上 何もかもがいちからのスタートでしたからね。ゲームの開発においては、五里霧中になることはどうしてもあります。そのような状況でも、“自分たちはこういうゲームがおもしろいと思う。そんなゲームを皆さんに遊んでもらうんだ”という理想を求めて開発することができたのではないかなと。
怖さとゲームとしてのおもしろさを両立できた作品
── 理想という意味では、三上さんは本作で“純粋な恐怖”の表現を求めたと以前からおっしゃっていましたが、その理想は実現できたと感じていますか?
三上 そうですね、ほぼ達成していると思います。“怖い”だけを求めるゲームは逃げる一辺倒になって、ストレスが溜まるばかりになりやすい。たまにはスカッとしたいでしょうし、同じ“逃げる”という行為にしても、そこに選択肢を持たせたかった。銃を使ったりするだけではなく、“自分ならこうして生き延びる”という選択の幅を持たせたほうが、ゲームの魅力は増します。怖さと、ゲームとしてのおもしろさを両立させたものが“サバイバルホラー”の原点であるという思いは、昔から変わっていません。そういった意味では、『サイコブレイク』で、僕にとってのサバイバルホラーの原点を表現できたと思います。
怖さを体感できるよう移動速度も試行錯誤をくり返した
──本作はかなりのボリュームとなっていますが、サバイバルホラーというジャンルにおいて、プレイヤーにテンションを長時間維持させるのは、難しいですよね。
三上 ゲームバランスは、すごく悩みました。難しすぎてもダメだし、簡単すぎてもダメですから。ただ、僕は、『サイコブレイク』はクラシックスタイルのゲームでもいいと思っていました。いまは、プレイヤーが何でも自由にできるゲームがメジャーですよね。でも、『サイコブレイク』はまず制限があって、その制限の中でいかに自由度を出せるかを重視したんです。弾薬も少なかったり、武器もそこまでたくさんあるわけではありませんが、生き延びるための手段をプレイヤーが選択したとき、限られた範囲内であるほど「自分はこれを選択したんだ、これで戦うんだ」という実感を、より明確に持てます。その選択の重みは、昔のゲームが持っていた魅力だと思うんです。そこはしっかりと踏襲したかった。
──自分が選択した方法が失敗に終わったときの悔しさが実感できるので、つぎのプレイに対する心構えも変わります。そんな古典的とも言える手法を最新のゲームで表現するというのも、大胆な試みですね。
三上 『サイコブレイク』では、新しさを追求しようとはあまり考えていませんでした。それをしてしまうと、おもしろいサバイバルホラーゲームにはならない。守りに入ったと思われるかもしれませんが、今回は「最近のサバイバルホラーゲームは、何かが違うんじゃないか」と思われている方がいれば、その気持ちを本作で晴らしてもらえれば、それでいいんじゃないかと考えました。
──クラシックスタイルとはいえ、本作が古いゲームとは感じません。ひとつひとつの要素は確かに“クラシック”と言えるかもしれませんが、全体を見れば新しいサバイバルホラーゲームになっていると思います。
三上 とにかく“怖いけれど楽しい”と感じてもらえるようにこだわったので、逆に新鮮なのかもしれませんね。スニークしているときの移動速度にもこだわりましたし。現代のゲームの基準に合わせた速度では、恐怖感が台なしになりかねない。ステージを前に進めばゴールになるという基本的なルールはありますが、移動が速すぎると、全部を無視してゴールにたどり着ければいいというゲームになってしまうでしょう。それでは、ホラーゲームとして破たんする。“遅すぎ”と不快にならず、でもきちんと怖さを体感できる移動速度を求めて、試行錯誤をくり返しました。
──そういった細部に至るまでのこだわりが詰まっているのですね
三上 僕が考える“サバイバルホラー”の文法は、本作でも変わっていませんが、いまの時代に合ったものにしようと思いました。移動速度も含めた全体のスピード感もそうですし、考えうるニーズに応えられるよう、細かい部分まで底上げしました。
──“ゴアモードDLC”もそのひとつですね。
三上
遊びの幅が一気に広がる“村”ここが重要なポイントとなった
──新しさを感じた理由のひとつに、やはりグラフィックによる“ここにいたくないと思わせる空気感の表現”があります。ライティングも含めて、あの質感はいままでにない恐怖をもたらすことに成功しています。
三上 ライティングは苦労しました。新世代機版は、影がすごくかっこよく表現できたんです。そのかっこよさに見とれちゃって、怖さよりも影の表現を優先してしまった部分が、ごく一部ですが、あります。この選択が正解だったかどうかはいまでも悩んでいるのですが、とにかく影がかっこよくて(笑)。
──逆に、そこに注目してほしいですね。とくにユーザーに見てほしい“影”は?(笑)
三上 そうですね……。洋館なのですが、外にある木々の影が通路に映っている部分は、とくにかっこいいと思います(笑)。ただ、真っ暗で何をしていいかわからなくならないよう、テストプレイは何度もくり返しました。
──お気に入りといえば、本作にはシチュエーションがチャプターごとに変わりますが、なかでも三上さんがお気に入りのチャプター、ステージはありますか?
三上 やはり、チャプター3で登場する村か、ラウラに追いかけられるシーンがあるチャプターですね。ラウラのシーンは、何度プレイしても怖いですよ。
──あの瞬間は、何をしていいかわからなくなって、パニックに陥ります……。
三上 あの焦りが楽しいんですよね。音にもちょっとしたミスリードを仕掛けていますから、ぜひ体験してほしいです。
──村を選ばれたのは、やはり最初にコンセプトが立ち上がった部分だからでしょうか?
三上 それもありますが、村はプレイヤーにとって“本番”を迎える場所だからですね。雰囲気はもちろん怖いのですが、どこに敵が潜んでいるかわからない緊張感もありながら、探索してアイテムを手に入れる喜びもある。チャプター3では、プレイヤーもゲームに慣れかかったくらいですよね。冒頭は怖さを前面に押し出していて、わざと逃げたり隠れたりすれば何とかなる構成にしています。しかし、チャプター3では、操作もある程度までは把握できるようになっていて、ここから“サバイバルホラー”のおもしろさが実感できるようにしています。遊びの幅が一気に広がるんです。ここがプレイヤーにとって重要なポイントとなる部分なので、ものすごく時間をかけて作りました。
──本作の“根本”が村に詰まっていると。
三上 それに加えて、開発のスタート地点でもありましたから。いま考えると、いろいろな要素を入れ込みすぎて、敷居が高くなりすぎたのかもしれない(苦笑)。スタッフ全員で頭を抱えながら、半年以上かけて作りました。
──チャプター3が完成したときには、すでにゲーム全体が見えたのでしょうか?
三上 いや、チャプター4が完成したくらいでしょうか。ここで初めて、『サイコブレイク』は“つまらないゲームにはならない。あとはおもしろいゲームか、すごくおもしろいゲームになるだけだな”と思いましたね。
──ちなみにラウラは、開発スタッフの皆さんがお好きなキャラクターですね。
三上 見た目もいいですし、ストーリーの根幹に関わってくる重要なキャラクターのひとりでもあるので。
──ルヴィクも、その背景がストーリーに深みを持たせているキャラクターです。
三上 天才的な頭脳を持ちつつも、異常なDNAを持っていて、ふつうの子どもと同じような環境では育てられなかった。その環境が育てたルヴィクというキャラクターの背景から生み出される“恐怖”を表現することは、本作のポイントでもありました。そもそも本作では“記憶”が重要なキーワードになっているのですが、記憶って“あいまい”じゃないですか。顔や名前を思い出せなかったり、故郷の光景が頭の中で補正されていて、実際にその景色を見たときに「あれ? こんな感じだったっけ?」と驚くことがありますよね。記憶は、そのときに受けたイメージがもとになって、自分の意志やほかの情報とともにどんどんと変わってしまう。この記憶の変化をゲームの世界で表現できたら、すごく魅力的なのでは?と思ったことは、出発点のひとつです。ゲーム内に具体的な表現として取り込んでいるわけではありませんが、そういった感覚が共有できるとうれしいですね。
生き延びることが難しいからこそ突き抜けたときの爽快感が楽しめる
──プレイヤーと感覚を共有するという意味で、ほかに大事にした部分はありますか?
三上 やはり、怖さとゲームとしての楽しさを体験してもらうことに尽きます。いままで作ってきたゲームに共通しているのは、ユーザーの気持ちを読みながら、その期待に応えられるゲームにしたいという思いです。ユーザーがこの部分でこういう気持ちになっているのなら、つぎはこうしてあげようと考える。ゲームクリエイターはエンターテイナーでなければいけないと思いますし、できる限り努力してユーザーを楽しませてあげたい。
──本作にもその思いは込められた、と。でも、やはりすべての人が納得できるホラーゲームは難しいですよね。
三上 もちろんそこは目指しましたが、確かにゲームを進めていて、“しんどい”と感じる部分はあると思います。全体的に難しいゲームと感じる方もいるかもしれない。でも、“カンタンなサバイバルホラー”はありえない。生き延びることがたいへんだからこそ、そこを突き抜けたときの爽快感が楽しめると思うんです。ゲームがあまり得意ではないプレイヤーでも、何度か挑戦すれば生き残る道が見えてくる、クリアーできそうだと思わせる難度を設定するのは、とても高い壁でしたが、そこにはかなりこだわりました。難しいゲームをプレイしたいから『サイコブレイク』を遊ぶ、という人はあまりいませんよね。怖くておもしろいゲームを遊びたい人が買ってくれる。会社や学校から疲れて帰ってきて、攻略の糸口もつかめない、反射神経が優れていないと先に進めないようなゲームをプレイしたいとは思わないでしょう。
──チャプターごとにシチュエーションも変わるので、先に進めたくもなります。
三上 ホラーゲームは“暗い、狭い、怖い”空気がずっと続きがちなんです。それでは疲れてしまいますよね。本作も“暗い、狭い、怖い”を基本にしてはいますが、それだけにはならないように気を遣いました。
──いままでのお話を踏まえると、やはりホラーゲームの開発は繊細ですよね……。
三上 気を遣わないといけない部分は、ふつうのゲームよりも多いかもしれませんね。
──では、最後に。まさにいま『サイコブレイク』をプレイしている読者も多いと思うのですが、そんな読者に伝えたいことは?
三上 皆さんが望んでいるサバイバルホラーになっているかどうかは、実際にプレイしてくれた方が遊んでみて、判断していただければ。買ってくれた方は、とことんまで遊んでください。まだ迷っている方には、本作は怖いだけのゲームではないと伝えたい。「ゲームっておもしろいんだよ」と、本作をきっかけに感じてもらえたらうれしいですね。海外ではダウンロードコンテンツの配信も発表しているので、今後の情報に期待してください。
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