週刊ファミ通掲載記事/坂口博信氏インタビュー(週刊ファミ通7月17日号掲載)

坂口博信氏インタビュー

坂口博信氏

『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親として知られ、独立してミストウォーカーを設立した後も、『ブルードラゴン』や『ロストオデッセイ』、『ラストストーリー』など多数のヒット作を手掛けてきた、“RPGの巨匠”坂口博信氏。その坂口氏が、7月2日(現地時間)からフランス・パリで開催中の、日本文化の祭典“ジャパンエキスポ”にて、新作を出展するという情報をキャッチ! 

真相を探るべく緊急取材を行った。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)

terrabattleロゴ

↑ロゴにあしらわれた男女のイラストは、主人公のものか?
『テラバトル』というタイトルからは、いかにも王道のRPGらしい重厚さが感じられる。

テラバトル
 
 

↑美男美女から歴戦の勇者風、さらには亜人種らしき姿まで、多様な人物が描かれたイラスト。絵柄からピンときた人も多いだろうが、これは、本作のキャラクターデザインを手掛ける藤坂公彦氏が描いたもの。藤坂氏は、『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズなどでもおなじみだ。

 

タイトルは『テラバトル』。新作RPG、ようやくお披露目です

坂口氏新作RPGはスマートフォン向け!iOS&Androidで9月にリリース!

──ご無沙汰しておりました。ファミ通誌面にご登場いただくのも久しぶりですね。
坂口博信氏(以下、坂口) そうですね、『ラストストーリー』以来ですか。
──今回は、ジャパンエキスポで何らかの発表をされるということを聞きつけて、駆け付けました。いったい何を……?
坂口 じつはいま、スマートフォン向けにRPGを作っています。最初は、短い時間でサクッと作ろうと考えていたのですが、RPGということでデータ量が多く、意外と時間がかかってしまって。1年くらいかかってしまいましたが、ようやく完成間近となってきたので、お披露目することにしました。
──スマホですか!?
坂口 はい。iOSとAndroid向けを同時に、9月リリースを目標に進めています。
──形式としては、いま主流のフリー・トゥ・プレイ(F2P)ですか?
坂口 F2Pですね。ただ、無課金でもきちんと遊べるようにしたい、という部分にはとても気を使っています。&color(white,シナリオ上のエンディングがあるのですが、無課金で行き着けるように作っています''。とはいえ、なるべく、お布施してくれるとありがたいな、とお願いしておきますが(笑)。
──坂口さんは、どのような形でこの作品に関わっているのでしょう?
坂口 私がプロデューサーで、プログラマーの大野がディレクター、という形にはなっていますが、開発チームは少人数ですから。担当範囲は、もう、全部ですよね(笑)。
──では企画、シナリオも坂口さんが?
坂口 シナリオは私が書いて、最終的な文章は、『ラストストーリー』でもいっしょに組んだ波多野君がやってくれています。私が書くのは、プロットのもうちょっと進んだところくらいまでですね。
──開発チーム全体ではどれくらいの規模なのですか?
坂口 どこまで入れるかによりますが、コアスタッフは6人ですかね。ほかに、グラフィックでモンスター関連をやっているスタッフが8人くらいと、背景のほうでもふたりいます。さらに音楽が、効果音もあわせてふたり……と入れていくと、けっきょくそれなりの数ではありますね。
──でもたしかに、近年のいわゆる“大作”と比較すると、小規模ですね。
坂口 コアスタッフが私を入れて7人というのは、初代『ファイナルファンタジー』のときと似ていて、それが楽しいですね。あのときは、最初期は4人で作っていたところに、だんだん増えていきましたが、それでも最後の最後で12人くらいでした。これくらいの規模だと、意思疎通が早くて気持ちいいですね。喧嘩をするとたいへんですが。
──ということは、よく喧嘩をなさっているわけですね(笑)。
坂口 昨日の夜も、言い合いが怒鳴りあいになって、レストランの人に怒られました(笑)。「そもそも坂口さんのアイデアがよくないんじゃないの?」、「はぁ? 操作まわりが悪いからだろ!」なんて、よくやっています(笑)。
──それにしても、スマートフォン向けというところで驚きました。この企画はどんな経緯からスタートしたのでしょうか?
坂口 いままでミストウォーカーは、ハードウェアメーカーとタッグを組む形での大規模開発を続けてきましたが、ここにきて市場も変化して、大きな物作りが難しくなっている状況です。でもミストウォーカーにも優秀なスタッフがいるわけですから、完全に手を休めて遊んでいるのはよくないし、我々のサイズにあった物作りをしようと。そこでまず、『パーティーウェーブ』というスマートフォン用ゲームを作ったんです。
──サーフィンを題材にした、坂口さんならではのユニークなゲームですよね。
坂口 でもこれが、正直に言ってぜんぜん売れていないんです(苦笑)。自分としても初めてのスマートフォン用タイトルということもあって、売れるものと売れないもので、雲泥の差がある世界なのだと勉強しました。また、“アプリの中でアイコンをひとつ変えただけでこれだけの効果がある”といった数値測定によるマーケティング手法のことも初めて知って、すごく新鮮に感じたんですよ。それで、「これはもう一度、きちんとチャンレンジしたい」という気持ちが大きくなった''んです。

 

軽いノリで始めたはずが、気づけばガチの大作RPGに

スマホ向けゲームならではのお祭り騒ぎを起こしてみたい

──『パーティウェーブ』の制作を通じて、スマートフォン向けゲーム制作に強いやりがいを感じられたからこそ、新しいRPGに本気で取り組むことになったわけですね。
坂口 ええ。それと、タイミングよく、いい人材が自然と集まってきていたのも大きかったです(※11ページのコラム参照)。
──その強力なスタッフたちと、スゴイRPGを作ってやろう、と?
坂口 いえ、それがかなり錯綜しました。最初はバレエのゲームを作っていたんですよ。
──バレエ!?
坂口 そう、バレーボールじゃなく、踊るバレエ(笑)。ほかにもいろいろ試作をして試行錯誤をしていたころに、『パズル&ドラゴンズ』プロデューサーの山本さん(ガンホー・オンライン・エンターテイメントの山本大介氏)と飲む機会があって。スマートフォン向けゲームならではの、気を付けなければいけないポイントなどを聞いて、刺激を受けたりもしましたね。そんなこんなで紆余曲折しながら、だんだん固まっていきました。
──ということは、最初から新しいRPGを作ろうと、意気込んでスタートしたわけではなかったのですね。
坂口 徐々に熱が入っていった感じですかね。最初はもっと気軽だったんです。ノリとしてはパーティーゲームの延長線上という感じで。それが、企画を進めていくうちに、いろいろな出会いや、独特のマーケティング手法など、つぎつぎと刺激がきて。「スマホでRPGを作るのっておもしろいし、みんなで本気でやってみようよ」と。途中から路線変更した形です。
──踏み込めば踏み込むほど、やり甲斐が見えてきたと。
坂口 そうですね。ほかのゲームを見ても、2、3年前は、言葉は悪いですが、ちゃちなゲームが多いイメージがありましたが、それこそ『パズドラ』などは、きっちりRPGですし、属性があって、チームも敵に応じてきちんと組み分けないといけなかったり。ある意味、そこらのRPGよりもきちんとデータ構造が作り込んでありますよね。
──そのうえ運営もありますからね。
坂口 そこですよね。リリース後にそうやって変化していくこと。また、コラボという形で、ゲーム内にほかの要素を取り込んだりしながら、ユーザーを巻き込んでお祭り騒ぎになっていくのはおもしろいですよね。このお祭り騒ぎを起こしてみたいと思っています''。
──ユーザーを巻き込んで長く育てるという点では、坂口さんが深く関わった『ファイナルファンタジーⅪ』(『FFⅪ』)もそうでしたね。
坂口 ええ。でも『FFⅪ』だと、3Dできちんと作り込んだ世界なので、あまり異物は入れられないんですよ。でもスマホ向けゲームの場合、いろいろな部分での手軽さもあって、気軽にコラボができますよね。異物を取り込んでも、そんなに世界観が壊れない。そのたくましさは魅力だと思います。

 

物語もグラフィックも万全 音楽はすべて植松伸夫氏!

──さて、今回はどこまでお話しいただけるのでしょう?
坂口 今回お見せするのは、ロゴと、藤坂が描いたキャラクターイラストを集めて、1枚のイラストにしたものです(8〜9ページ参照)。
──タイトルは『テラバトル』で決定ですか?
坂口 はい。このゲームは、最初はいわゆるファンタジーワールドで始まるのですが、後半では、かなりSF色が入ってきて、宇宙空間で戦うようなところまでいってしまいます。“テラ”というワードは、そんなシナリオの流れを汲んでいます。あとは、ゲーム内の魔法の序列として、“メガ”、“ギガ”、“テラ”を使っている''んです。テラがいちばん強い魔法で、“テラフレア”だったり。そういった意味も含めて、“テラ”と名付けています。
──イラストのほうには、かなりの人数が描かれていますね。
坂口 これでも全部ではないです。この中から、プレイヤーが好きなキャラクターを選んで、パーティーを組んで戦うことになります。ただ彼らも、絵と能力だけではつまらないので、プロフィールはきちんと設定してあって、ゲーム中で見られるようになっています。それぞれ人間関係もあるので、あるキャラクターと関係性のある別のキャラクターが仲間になると、彼らの会話や過去の話などがプロフィールに足されていったりします。ですから、仲間を増やせば増やすほど、それぞれプロフィールの厚みが増していく''感じですね。
──グラフィックやシナリオにはかなり注力されているのですね。音楽はいかがですか?
坂口 植松さん(植松伸夫氏)がやってくれています''。今回は、ジングルなども含めてフルでやってくれているので、全部で20曲くらい書いてもらっていますね。
──20曲となると、バリエーションもいろいろとあるのでしょうね。
坂口 もちろん戦闘の曲がいちばん多いですが、シナリオに付随して、あるキャラクターのテーマ曲だったり、みんなが悲しみに落ちたときの曲だったりと、感情表現をするための曲も用意してもらっています。あとは、植松さんはあまり使いたがらないのは知っていたのですが、今回はボコーダー、いわゆる人工音声を使った曲も入れてみようよ、とお願いして、曲を書いてもらったりしています''。
──植松さんは、いわゆる“歌もの”の曲にも定評がありますが、また新境地の曲が聴けそうですね。
坂口 ええ。私が英語で歌詞を書いた曲がひとつと、日本語の歌詞が乗った短いジングル曲がひとつあります。必聴ですよ。
──ゲームシステムなど、肝心のゲームの中身については?
坂口 それは今回はヒミツです。ただ、当初はもっと軽めのゲームを作るつもりだったのですが、『FF』に携わってきたようなスタッフが多く集まっているのと、自分自身、軽いものでは許せないという習性もあって、どうしても止められなくて、ついつい作り込んでしまいました(笑)。そのぶん、遊びごたえがあるものになりましたし、ファミ通さんでご紹介するのに恥ずかしくないものになったと思っていますよ。

 

お祭りを演出するとある“仕掛け” すべては8月に明かされる!?

──さきほど“お祭りを起こしたい”といったことを仰っていましたが、今後は具体的にはどんな動きがあるのでしょうか?
坂口 まだ詳細は言えませんが、いろいろ仕掛けを考えています。ひとつには、いままでゲーム作りで関わってくれた人たちに、片っ端から声をかけているのですが、みんな気前よく、「いいよ、やろうか」というノリで''。けっこう集まってきているんですよ。
──おお。では、ゲームファンにはおなじみの作家さんがコラボで参加したり……?
坂口 そうですね。スマホの特性でもあると思うのですが、お祭りで、ごった煮な感じ。ある程度テイストが違う方が入っても成立するし、そのほうがおもしろい世界になると思うんですよ。ですから、『テラバトル』の、藤坂の絵柄なり背景なりに合わせてもらうのではなく、その作家さんならではの味、個性を出してもらったらいいかなと。
──それは楽しみです。そして、どうしても僕たちが気になるところとして、家庭用ゲーム機での展開はないのでしょうか?
坂口 じつは、いまお話しした、いろいろなクリエイターさんに集まってもらうための、ある“仕組み”を用意しているのですが、その延長線上で、スマホの『テラバトル』を出発点にして、最終的に家庭用版に行き着けたらいいな……と思っています
──“仕組み”ですか。謎めいていますね。
坂口 9月リリースを目標に進めているので、開発のスケジュールとしては、7月末にはフィックスしようと考えています。ですので、その直後くらいのタイミングで、ゲーム内容も含めて、詳しくお話しします。
──久しぶりの坂口さんの新作RPG、しかもスマホで本気で開発ということで、とても楽しみです。また取材におうかがいします!

 

試行錯誤中に生まれた試作タイトル

インタビュー中でも語られている通り、当初は『パーティーウェーブ』の延長として、軽いノリで始まったという、坂口氏のスマホ向けゲームプロジェクト。その初期のころには、たくさんの試作タイトルが生まれては消えていったのだそうだ。ここでは、『テラバトル』の踏み台となって消えていった(?)、ボツ企画の貴重なイラスト、制作中画面などを公開しよう。これらも遊んでみたい!

踊って戦う? “バレエ”ゲーム

試作タイトル
試作タイトル

↑バレエダンサーの娘が、ステージを荒らすモンスターと戦いながら踊るというゲーム。スタッフ全員でパリに赴き、オペラ座を取材したりもしたのだそうだ。

試作タイトル

↑紙芝居のような、二次元の影絵風世界で、本と戦うゲーム。目を惹かれるアートワークだ。

試作タイトル

↑スーパーファミコンのころの『FF』のようなイメージのバトルで、召喚をメインに戦うゲーム。

ミストウォーカーの精鋭たちを坂口氏みずからの言葉で紹介!

インタビュー中でも言及された、坂口氏が信頼を寄せるミストウォーカーの精鋭たち。ここで、坂口氏みずからのコメントとともに紹介しよう。

ミストウォーカーの精鋭たち
  • 大野浩司氏 (おおの こうじ/ディレクター)写真左
    スクウェア・エニックス在籍時に『FFⅪ』などのプログラマーとして、エンジンの開発に携わる。今回ひとりですべてのプログラムを担当。超人である。
  • 藤坂公彦氏 (ふじさか きみひこ/キャラクターデザイン)写真右上
    代表作『ドラッグ オン ドラグーン』『ラストストーリー』など。今回は、無茶な数のキャラクターイラストを担当。ハイセンス男。
  • 西村有紀氏 (にしむら ゆき/ゲームデザイン)写真右下
    スクウェア時代、“エクセルの魔術師”として活躍してもらった。非常に緻密で大量のRPGデータを構築。がんばりやさんである。
  • 葉山賢英氏 (はやま けんえい/グラフィクスデザイン)写真中央
    ソニー・プレイステーションキャンプにて活躍。今作では、UI、エフェクトなどゲーム全般にわたりハイセンスにまとめてもらった。

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